ひじおりの灯2016

命をつなぐ冬ものがたり

紙本彩色 墨 金泥 箔 絵の具
2016年制作
カネヤマ商店 点灯




肘折の冬は長く、およそ半年間が冬である。季節の分かれは、四つではなく、春夏秋冬冬冬と数えてもればイメージしやすいだろう。「冬」と一言で言っても 初冬期、厳冬期、晩冬期とあり、それぞれ有様は異なる。
初冬期は、紅く鮮やかな葉が落ちる前に降り出した雪がその山肌に白くぽつぽつと模様を染める。秋に木の根元で成長したなめこは、収穫されないまま白い傘をかぶる。徐々に白く彩を奪われた広葉樹と対極的に、針葉樹がその存在感を強調していく。
厳冬期は、すぐ近くの景色が判別できなくなるほどに雪が視界を奪い、一晩で1メートルほど積もることがある。河上の岩に円筒状に雪が積もり、溶解と積雪を繰り返しながら輪郭を膨らませていく。光が射さなくなった雪の大地では、白と黒の水墨画のような世界が広がり、隠れ場所を失った野生動物たちが足跡を残しながら姿を濃く印象付ける。たまに覗く太陽は、陽の温かさと明るさがこんなにも有難いものなのだと気づかせる。
晩冬期は、徐々に面積を広げる青空と共に降雪が和らぎ、高く壁のように積もった雪が溶けていく。人々は待ちわびた春の足音に心を弾ませ、太くやわらかな山菜を夢見る。
厳しい冬の暮らしでは、命を落とすものもいる。それでも人や動物たちが命を繋げてこられたのは、温泉があったから。標高300メートルの山のカルデラの中で積雪4メートルの気象環境は非常に珍しい。その厳しくも豊かな雪が水となり、大地をくぐり温泉となる。その循環の中で生まれた温かい恵みの恩恵を授かりながら、新しい命を生み、家族や住人皆で大切に育んできた。6か月も続く長い冬の間、そうやってこの雪国の人々は命をつないできたのだ。